前回までに、リチウムイオン電池の発火リスク(STEP 1)および製造物責任法(STEP 2)について解説しました。 今回は、こうしたリスクを未然に防ぐために設計段階で取り入れるべき安全設計とリスク低減策について紹介します。
リスクアセスメントの基本プロセス
安全設計の前提として、まず製品のリスクアセスメントを行うことが推奨されます。
以下は、国際規格(ISO 12100(JIS B9700))に基づく一般的な手順です:
- 使用条件および合理的に予見可能な誤使用の明確化
- 危険源・危険状態の特定
- リスクの見積もり
- リスクの評価
- リスクの低減(次項で詳述)
このプロセスは、一度で終わるものではなく、設計・試作・頒布前に複数回繰り返すことが求められます。
参照元
・NITE「製品安全におけるリスクアセスメントの概要」
https://www.nite.go.jp/data/000141642.pdf
安全設計のポイント
発火や爆発を防ぐための設計上の配慮には、以下のようなポイントがあります:
BMS(バッテリーマネジメントシステム)の導入
過充電・過放電・過電流・温度異常を監視・制御する回路を設けることで、事故の多くは未然に防ぐことが可能です。物理的保護構造の確保
電池を外力・衝撃から守るため、筐体内部での固定、金属部品との絶縁、防振クッション材の活用などが必要です。誤配線・逆接続対策
ダイオードや保護FET、ヒューズなどを組み込んで設計上の誤使用を電気的に防止する手段をとります。第三者認証の取得(可能であれば)
PSE、IEC、ULなどの安全認証を受けることで、リスクが体系的に管理されていることを対外的に示せます。
参照元
・オムロン「リスクアセスメントの手順 / ISO 12100 解説」
https://www.fa.omron.co.jp/product/special/safetynavi/design/iso12100/risk_assessment/
リスク低減のための3ステップアプローチ(ISO 12100)
ISO 12100では、リスク低減のために以下の3段階アプローチをとることが原則とされています。
1. 本質的安全設計措置
構造そのものを見直して危険源を取り除く
(例:不燃性材料の選定、低電圧化、電池搭載そのものの再検討)
2. 安全防護・保護方策
物理的ガードや回路的フェイルセーフなどによって危険を封じる
(例:セルごとのヒューズ、筐体内断熱構造)
3. 警告と情報提供
取扱説明書・製品ラベル・WEB上での明確な注意喚起を通じてリスクを伝える
(例:充電方法や保管温度条件の明示)
参照元
・IDEC「ISO12100による安全設計」
https://jp.idec.com/RD/safety/law/iso-iec/iso12100
・経済産業省「リスクアセスメント・ハンドブック(実務編)」
https://www.meti.go.jp/product_safety/recall/risk_assessment_practice.pdf
まとめ
- 製品設計には構造・回路・運用面での安全設計が不可欠です。
- 設計者は、製品使用者のスキルレベルや誤使用の可能性も見越して、複数層のリスク低減策を組み合わせる必要があります。
- 本質的安全設計 → 保護方策 → 情報提供、という三段階アプローチが基本です。
次回は、事故発生時の対応と法的リスクについて、実際に事故が起きた際に求められる対応、責任の所在、社会的影響などを整理します。
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